能登は祭りの多い土地柄である。
その祭りには「よばれ」と呼ばれる饗応が付きものである。
祭り当日ともなれば、親戚や父親の勤め先の人などがわんさと押しかけてきた。
先の家で一緒だった見ず知らずの人を連れての時もあるが、準備する側も心得たもので、どうぞ、どうぞと招き入れる。
一方、裏方の流し元といえば、大変である、御膳を用意しなければならないのである。
その都度盛りつけていてはとても間に合わないので、刺身など事前に盛りつけておけない物は除き、盛りつけておいてもよいものや茶碗蒸しなどをそろえておくことで、手早く準備することが可能となるということで、各家々には、膳部台というものがあった。
ようするに、組み立て式の木製の棚である。
その棚に器を並べておき、御膳の上に配置していくのである。
最近では、仕出しを獲ることが多くなり、全てオリに入れられて、時には保冷剤も入れられて届けられるので、あまり使われることが無くなってきている。
という、私も、これはもう使わないだろうと思い、捨てようとしたところへ、近所のおばさんが通りかかり、「あんちゃん、それ膳部台やろ、なんで捨てるがや、なんかの役に立つかもしれんさかい、とっておかしよ。」と言われた。
う~ん、どうしようかな、それではとりあえずとって置くかということで、今、納屋の隅に使われないまま鎮座している。
この膳部台に限らず、祭りや葬式用の御膳やら器、お酒の銚子やおちょこも使われないままに、物置にで~んと居座っている。
以前は、祭りの次の日に、輪島塗りの御膳や器はお湯で洗い、幾度も拭いて和紙にくるんででしまうという作業が女性達の手で行われていた。
今では考えられないような手間の掛かる作業であった。
「能登のとと楽」と言う言葉があるが、こういった作業を黙々とこなしていた能登の女達を褒める言葉でないかと私は思う。