能登の雑煮というと、大変豪華である。
若いときの話であるが、初任地である小松で、正月明けに、事務室で雑煮をつくろうということになり、「それでは色々と買い物をしなければなりませんね。」と言ったところ、「何、言うとるがいねん、雑煮はすましや。」と言われてびっくりした記憶がある。
私の家では、餅は丸餅で、昆布を敷いた鍋にもちをならべ、先ずは、餅だけを煮るのである。
かけ汁はと言うと、あごだし(トビウオのにぼし)、あるいは昆布だしで、焼き豆腐、こんにゃく、生椎茸、にんじん、昆布のかまぼこ、赤と白の鳴門巻き、ちくわ、かしわ(鶏肉)などといった物を入れた、まさに雑煮となった汁をかけ、最後に、ぼたのり(生の岩のり)乗せて食べるのが我が家流の雑煮である。
小さい頃は、大家族であったため、丸餅はお釜に昆布を敷いて、ひっついさん(竈 かまど)で40個、50個と煮たものである。
もちろんかけ汁も大鍋でつくるのが普通であった。
正月3が日は、だいたい朝に雑煮を食べると、お昼は食べないことが多く、ミカンを食べたり、お菓子をつまんだりで、夕食まで持たすと言った感じだった。
また、昔、近所のおじいちゃんが若い頃に、出稼ぎ先の蔵元(能登地域は昔から能登杜氏が有名で、酒造りに出稼ぎにいっていた。現在でも続いている。)で、正月にお雑煮を食べていたときに、蔵元の旦那さんから、「重さんや、雑煮はうまいやろ。」と聞かれたが返事をしなかった。
蔵元の旦那さんは、「なんで返事せんがや。」と聞いたら、重さんは、「おらかたの雑煮には、かまぼこやらしいたけ、やきどうふやかしわやら入れて、ぼたのりを乗せて食べるがや。」と言ったところ、「そんな贅沢しとるから、出稼ぎにこんならんがや。」としかられたそうである。嘘のような本当の話である。